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催眠小説:【闇の現小説】一覧ページ
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【闇の現小説】
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時は現代――


キー・・―

彼は昔よく来ていた店に訪れていた。
昔から或る古いドアは、軋む音を上げて、男を向かい入れる。
場所は、六本木。克司と会ったあのバーである。

向かい入れたバーは、狭いバーだった。
L字に緩く曲がったカウンターバーは、6人ほどしか座れない。
その奥には、小さなボックスが2つあるのみ。
それも、ゆとりがあるとは言い難かった。

「懐かしいな・・・」

男がその店に入るのは、かれこれ十数年ぶりだった。
何せ、克司と会うためだけに通っていた店だ。
彼がいなくなった時、店に来る理由もなくなっていた。
今彼は、どうしているのか?

「いらっしゃいませ おや・・あなたは。。」

マスターらしき男が、声を掛けてきた。
その顔には身を覚えがある。堀の深い顔に、小さな傷跡。
昔、客を守った際に付いたんだと聞いた傷跡が、今もあった。

「やぁ、マスター。覚えていてくれたかい?」

男は、昔、此処を常連にしていた男のように不適に笑い、話した。


「えぇ、あなたのことはよく覚えていますよ。どうぞ、こちらへ。」

カウンター奥から二つ目の席に案内され、そこに腰掛ける。
壁には懐かしい男の写真があった。
この席は、あの男と話をしていた際の特定席だった。


「懐かしいですね。飲み物は何になさいますか?」

―飲み物。   カラン―と、耳の奥で音がなった気がした。

「あいつと同じ、バランタィンの20年ロックで。」
「畏まりました。」


店の中を改めて、見渡す。
こんなに小さなつくりだったか?
あの時は、まだ酒も覚えたてで、行きつけの店もなかった。
この店に通うようになって、酒の味を覚えるようになっていったのだ。

カウンターの中には、各種銘柄が勢ぞろいしていた。
店が小さいだけに、あまり種類が置けないだろうと思うのに、
その数は、他の店にも負けじ劣らずと置かれており、
特に、ブランデー・スコッチなどの愛好家には人気がある店だった。

―『手軽に酔えるから、これでいい。笑』

そう言って、バランタインを嗜んでいた、過去の男を思い出す。
だが、いくら飲んでも酔っている様な様は見えなかった。
今思えば、酒の味もあいつに教えてもらったのかと、苦笑する。

色々振り返りながら・・・ 若いというのは恐れを知らないなと愚痴めいた。


「どうぞ。」
目の前には、昔懐かしいグラスに丸い氷がいれられた、琥珀色のグラスがひとつ。

・・・あ。・・・     カラン―


「―どうされましたか?」

暫く、グラスを見つめて固まっていたらしい自分を見つめて、
マスターが声を掛けてきた。

「あ、すまない。グラスを見たら懐かしくなってね。」
「そうでしたか。そういえば、克司さんも最初、同じ言葉を呟きましたね」
「最初?」

グラスに手を掛け、味わいながら問う。

「ええ、この店に始めていらっしゃった時のことですよ。
 そうそう、同じように、神妙な顔でグラスを暫く見つめてらっしゃっていて。笑」
「へぇ~・・・ あいつがねぇ・・・・」
神妙な顔をするようには見えないけどな。

「声をかけたら、同じような言葉を。笑 何か、思い出でもあったんでしょうかね。」
―思い出。

その言葉を聞くと同時に、一気にフラッシュバックのように、
何かの映像・様子・言葉・情報が男の頭の中を駆け巡った。

っ!・・・



カラン―



氷の音で、目が覚める―

そうだ・・俺は・・
これを「知る」為に、「ここ」に来たんだ・・・


「すいません、おつまみを忘れていました。こちらをどうぞ。」
「あぁ、ありがとう。」
手前に出された、小さなピーナッツ受けを見つめながら
男は答えた。



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